私には大好きなものがありました。
富士山。
学生の頃に友達と登って以来の富士山ファンです。
こうやって富士山という字を書くのも
言葉にして発音するのも、見るのも登るのも好き。
ちょっと変態ですね(笑)。
周りにはなんでそんなに?って言われたりしますが、好きなものは好きなんです。
だから毎年夏には仲間と登るのを楽しみにしていました。
骨肉腫と診断されたとき、手術が絶対必要なのはわかっていました。
でも同時に思ったことが「もう登れないかも」ってことでした。
もちろん命があるかないかの状況なので
手術を拒否する選択肢はなかったけど、
やっぱり手術後にどういう体になるのかわからなかったことは
ずっと不安でした。
手術日が8月13日に決まったとき、
手術前に富士山を見に行こうと思いました。
登るのは無理だけど、今の体でちゃんと挨拶しておきたかったんです。
月に一度実家に帰ってはいたけど、
外泊願いを出して山中湖に行くなんて、それまでは考えてもいませんでした。
でも思いついてしまったら、もう気持ちは決まっていました。
人ってやりたいことがあると
それまで思ってもいなかったような力が出るもの。
ただベッドの上で治療の日々を過ごしているよりも
自分が元気をもらえる富士山に会いに行くというのは、
すごく有意義なことに思えました。
きっと手術への不安とか恐怖を断ち切りたかったんだと思います。
どんな季節にも美しい姿を見せてくれる富士山を見て、
どんな姿になっても自分は変わらないと、思いたかった。
雄大な富士山を見て、
自分の悩みなんてちっぽけなものなんだと思いたかった。
だって世の中にはもっと大変な思いをしている人はたくさんいるだろうから。
そして何より、治療をちゃんと終えて
生きてまた富士山に会いに来るっていう決意をしたかった。
だから、行くって決めました。
日程を決めて、山中湖で仲間と会うことを約束して
その日まで絶対風邪とかひかないようにしようって誓いました。
8月の東京。
普段エアコンの効いた病院にいるので、
外の暑さにはまったく慣れていない状態です。
体力も落ちている中、荷物を持って暑い東京を一人で移動できるか心配はありましたが、
富士山に会うためなら這ってでも行く思いでした。