抗がん剤は一度投与すると、いろんな副作用が出るので、
次の抗がん剤に耐えられるよう体の回復を待つことになります。
回復期間は人によりますが、
私は3週間に一度の抗がん剤のペースでした。
2度目の抗がん剤治療は、真っ赤な薬でした。
経験者なら、あれか!と思う人もいるかもしれません。
そう、アドリアマイシンです。
薬の名前はステキな響きですが、
アドリアマイシンには恐ろしい副作用があります。
女性の悩み、脱毛です。
実は一度目に投与した抗がん剤は、嘔吐は激しかったですが、
脱毛はあまり見られない薬でした。
でも周りでこの真っ赤な抗がん剤を使った人は
必ずごそっと脱毛していたので、
避けることのできない副作用がくるのかと、覚悟しました。
最初に投与したシスプラチンは嘔吐が激しいけれど脱毛しない。
アドリアマイシンは脱毛は100%する代わりに吐き気や嘔吐はひどくない薬です。
激しい嘔吐と100%の脱毛。
どちらも嫌ですが、私は脱毛するくらいなら、
嘔吐してた方がいいって思うくらい、脱毛は避けたいものでした。
抗がん剤投与の日。
医師と看護師が真っ赤な点滴を持って病室に来ました。
本当に逃げ出したかった。
点滴が入らなければいいのに。
急に熱が出て投与日が延期になればいいのに。
そんな小学生みたいな期待すらありました。
でも避けられない現実です。
点滴の針が留置され、赤い液体が体の中に入っていくのを見ながら
ベッド周りのカーテンを閉め切って、静かに泣きました。
悪性の腫瘍ということは、
命が助かるかどうかというところで治療しています。
もちろん生きたい気持ちは強くあります。
でも脱毛したあとの自分を想像することができませんでしたし、
家族や友達に見られるのも、私にとってはすごく苦痛だったんです。
看護師さんに「治療が終わればまた生えてくるから」
そんなことを言われても、まったく慰めにはなりませんでした。
がん=脱毛=帽子をかぶっている人
おそらく世間が持っているだろうそのイメージに
自分が分類されるという未来が恐ろしかったんです。
ちゃんと治療して生きたい想いはあるものの、
この時だけは治療に消極的な気持ちがあったのが事実です。
先生すみません...
でも中には脱毛なんてたいしたことないよっていう女性の患者さんもいます。
髪の毛が抜けたら処理が大変だからって、先に剃ってしまう人もいたので、
あのとき私にもそんな強さがあったらと思います。
そんな風に割り切れる人が羨ましかったんですね。
そしてアドリアマイシンを投与して約2週間後、
私にも脱毛という副作用は訪れました。
※人によって使用する薬剤、副作用は個人差があります。