【最後かもしれない】

外泊願いを出しても、当日の採血結果によっては

白血球が落ちてたりして、許可が下りないことが多々あります。

でも手術前の山中湖と富士山への外出だけは譲れませんでした。

 

 

朝の採血をして、結果が出次第出かけようと準備を進めていました。

そして、先生が採血結果を伝えに来ます。

 

気になる白血球の数値は?

 

 

思っていたよりも低値でした。

はっきり覚えてはいませんが、2000前後だったと思います。

 

白血球の正常値は4000~9000。

投与していない期間は3000あたりで安定していたので、

そう考えるといつもよりも低いです。

 

2000だと人に接触したりすることで、感染のリスクが高くなるので、

外出できるかどうか、ぎりぎりのライン。

 

 

でも私は絶対に山中湖と富士山に行くって決めていました。

先生もそれをわかっていたのか、

白血球を上げる薬を注射して、無事に外泊の許可が下りました。

 

 

この注射、けっこう痛いって言われていますが、

そのときの私には、そんな痛みも激励に変わっていました(笑)。

 

 

 

山中湖へは新宿からの高速バスを予約していました。

もう何度も行っているので、行き方は問題なかったんですが、

やっぱり外に出た瞬間の東京の猛暑は、私の体力のない体を直撃してきました。

 

 

病院から最寄りの駅まで歩いて15分くらい。

暑さで一歩ごとに体が疲れていくのがわかりました。

ベッドでの生活がこんなに体力を落とすものなんだと驚きました。

 

 

3か月ぶりに電車に乗って新宿へ。

実は新宿に出るまでの道のりを全然覚えていません。

たぶんあまりの暑さに熱中症ぎりぎりだったのかも。

朦朧としながらバスの座席に座れたときにはホッとしました。

 

 

 

そして今度は涼しいバス車内。

世間はこんなに暑いのと寒いのが一気に入れ替わるのか!と

今まで快適に感じていた涼しさに、体がついていかない気がしました。

 

 

バスの座席は窓際でした。

たまに陽射しが入ってきます。

本当なら「いい天気~」って喜ぶんですが、

抗がん剤治療中は、実は皮膚の色素沈着が起こりやすいもの。

 

 

色素沈着の原因は強い圧迫や紫外線です。

 

蚊に刺されて痒い部分を掻いていただけで、

指で掻いた跡が茶色く残ってしまったり、

 

ブレスレットをつけて寝ていたら、

ブレスレットの痕が茶色くついてしまったりしました。

 

 

そんな圧迫している意識がないくらいの強さでも

皮膚が変色してしまうんです。

 

 

皮膚症状は人や薬によってまちまちなので

あまり副作用としては知られていませんが、

色素沈着すると何年も残ってしまうので、

予防できるように知っておいた方がいいものです。女子的にはね。

 

 

紫外線については、病院内にいる分には気にしていませんでしたが、

外にいるときはなるべく紫外線が皮膚に当たらないように

先生からも注意を受けていました。

長袖のカーディガンを羽織って、帽子を目深に被って完全防備です。

 

 

病院から新宿でバスに乗るまで、1時間もかからない移動だったけど、

もうぐったり。

眠たいのに、気分が高揚してずっとそわそわしていました。

 

 

そして2時間後、富士山が私の目の前に広がりました。

 

 

 

 

毎年のように訪れている山中湖、そこから見える富士山は

その日も変わらずに私を迎えてくれました。

 

 

いつもと違うのは、そこに立つ私の気持ちでした。

 

 

山中湖に行ったときの私の一番の楽しみは、赤富士を見ること。

朝日に染まる富士山は、私の大好きな景色。

 

このときももちろん、次の日の朝早くに出かけました。

有名なスポットなので、写真家さんたちがたくさんいる中で、

私は一生懸命、目の前の富士山を目に焼き付けました。

 

 

これで最後かもしれない。

 

 

そう思って見ていました。

 

 

山中湖に来るのも、仲間とバーベキューをするのも、

こうやって日の出とともに富士山に会いに来るのも、

最後かもしれないって。

 

 

病院のベッドに戻ってもいつでも鮮明に思い出せるように、

ただひたすら見つめていました。

 

 

そして心の中で「ありがとう」と言って帰ってきました。