【ほしいのは薬じゃない】

病院の消灯時間は21時。

その時間に眠れることなんてほとんどありませんでした。

日中は家族や友達や病室の人と話していることで気が紛れるけど、

消灯されてしまうと、自分の真っ暗な世界に連れ戻されます。

 

 

不安は尽きませんでした。

手術が迫ってくる中で、手術後に自分がどういう体になるのか

一生懸命想像しようとしていました。

 

こういう手術をするよって何度説明を受けても

そんな人見たことないし、どういう足になるのか

どういう歩き方になるのか、杖を使うのか、

想像力に欠ける私には難しい課題でした。

 

 

夜、たまに看護師さんが見回りにやってきます。

懐中電灯がちらちら近づいてきてカーテンの中を覗いたとき、

私が起きてると「眠れない?」って聞いてくれます。

 

「眠れない」って答えるとたいてい返ってきた答えが

「睡眠導入剤、使う?」でした。

 

 

そんなのいらない。

眠るために薬なんて使いたくなかった。

 

私が必要としていたのは薬なんかじゃなくて、

少しでもそのときの気持ちを聞いてほしかっただけ。

 

 

この、不安で出口の見えない気持ちを誰かに吐き出したかった。

もちろん看護師さんには他にもやることがあるし、

一人一人のそんなわがままを聞いていることは

不可能なのかもしれないけど、

それでも答えなんていらないから、聞いてくれる人がほしかった。

 

家族にも友達にも言えない想いってあるものなんです。

 

 

あの頃、看護師の免許を取ったのに、

看護師から一番遠いところにいるような気がしていました。